レイ・カーネ(1925-2008)
｢これが私の愛している音楽、六十年以上演奏している音楽だ。長い時間だね。でも私はこの音楽が永遠に生きて欲しいと思ってるんだ。あのね、私が演奏している音楽は、本当は私の音楽じゃない。もらったもんなんだよ。私のしてきたことは、自分の番が来ているあいだこの世話をして、次の世代も同じ機会がちゃんとあるようにすることだ。それが私のしてきたことの全てさ。そうしている時間がとっても愛しいんだな。本当だよ。｣
スラックキー大使として知られ、親しまれてきたレイ・カーネは、多くの人々がこの美しい独特なギタースタイルの扉をあける手助けをしてきた。アンクルレイは、公開コンサートで演奏し、広い範囲をツアーし、ドキュメンタリーフィルムに出演し、定期的に教えてもいるスラックキーマスターの一人だ。多くの伝統的アーチストがそうであるように、彼もまた文化の源泉としての自分の役割を非常に真剣に受け止めている。｢もし、スラックキーをシェアしなければ、スラックキーをなくしてしまう。｣と彼は言う。｢一度、それが現実になるところだったんだ。だから、気をつけないといけない。｣
レイモンド・カレオアロハポイナオレオヘレマヌー・カーネは、カウアイ島のコロアで1925年に生まれた。ハワイ語のミドルネームを日本語で言うと、｢小鳥のようにやってきて飛び去っていくけどきっと忘れない愛の声｣だ。それは彼の外向的な人柄を言い当てている。
その人柄は、スラックキーの最も愛されているカラフルなキャラクターの一人という地位をもたらした。
 レイ・カーネはオアフ島の岩礁の多いワイアナエ海岸のナナクリで育った。継父がそこで漁師をしていた。母方では、多くの有名なハワイアンミュージシャンと親戚だった。その中には、アンディ・カミングス、ジェノア・ケアヴェ、マレーネ・サイ、メキア・ケアラカイ、といった人達がいる。幼い頃からレイは彼らの伝統のなかに漬っていた。実父のハーマン・”マヌー”・カーネは、どこで聞いても、飛び抜けたスラックキー演奏者だったという。ところが、
レイがまだ二歳のときに家を出て行ってしまった。九歳になったレイがスラックキー演奏者を天職と感じたときに、ハーマンがレッスンしてやるには家族の外から戻って来なければいけない。しかし、それは非常に困難だった｡
｢その当時は、家族じゃないと教えなかったんだ。｣とレイは言う。｢でも、私は潜水が得意でね。そこで、アルバート・カヴェーロと取り引きをしたんだ。魚のかわりにレッスンだよってね。｣レイはヘンリー・カプアナや子どもの頃に歌を教わったラジオにも助けられた。
｢当時、どこへ行くのにもギターを持ち歩いていたものだった。｣とレイは言う。
｢お気に入りのスポットはザブランビーチだ。夜はとても静かだった。まわりに誰もいない。
波に月の光が落ちているのを見つめながら、座ってギターをひいたものさ。｣
1940年代になると、レイは軍隊に入り、ヨーロッパとアメリカ本土を旅した。
｢ギターがなかった。｣と彼は言う。｢だから、ほとんど弾けなかったんだ。けれども、たくさんギターについて考えて、夢の中でもギターのことを考えていたよ。｣彼が家に帰ったとき、伝説的なスラックキー奏者、ギャビー・パヒヌイの最初のレコードを聞いた。｢それがまた演奏しようという気持ちを奮い立たせたんだ。｣と彼は言う。｢アルバートの後は私にとってギャビーだった。
彼には本物のハワイアンスタイルがあった。彼の声、タイミング、タッチ、心から感じとれるものだね。彼の歌はたくさん演奏しているし、たくさんのものを負っているんだよ。｣
1961年にトレードウィンズレーベルが、彼の最初のレコーディングのためにレイを招いた。｢いい経験だったけど、金にはならなかった。家族ができていたから、週末に少し演奏できるだけだった。｣1970年代はハワイの伝統的アーチスト達に新たな関心が集まった｡彼らはしばしばメディアの人気者になり、若者達のお手本となった。  レイにとっては、1973年、新設されたハワイ音楽財団から公式コンサートを依頼されたときに全てが始まった。これはスラックキーにとって、新しい何かだった。それは音楽と音楽家に全く別の聴衆を連れてきた。｢何で私を選んだんだろうね。有名じゃなかったし、定期的に演奏していなかったし。1930年代に学んだスタイルにこだわろうとしていただけだった。
もしかすると、そのせいなのかもしれないね。でも、気が付くと、至る所で演奏して欲しいと求められたんだ。あらゆる人がそういうコンサートにやってきた。みんなただそこに座り、音楽を聴き、歌が終わるたびに拍手喝采した。私はショック状態だったよ。｣
レイのユーモアに聴衆は大喜びだった。やさしいロマンチックな音楽は聴衆をリラックスさせ、あるときには泣かせた。「私も時々泣かされたんだ。」とレイは言う。不運にも、新たな名声の絶頂で彼は深刻な健康問題のために演奏を断念しなければならなかった。1980年代になって、彼は演奏と授業を再開した。「私は一対一で教えるのが好きだ。」と彼は言う。
「私はどの学生にも心を込めて自己流でやりなさいと言うんだ。それから他人を悪く言うもんじゃない。自分に謙虚になり、自分のベストの演奏をして、自分が知ったことは、分かち合いなさいってね。」
1987年に、レイは演奏と指導が認められて、伝統的アーチストの国の最高の栄誉、全米芸術基金の民族遺産賞を贈られた。彼はまたハワイ州政府とホノルル市からも認められた。その同じ年、レイはロバート・マッジのハワイアン レインボウ ドキュメンタリーに登場し、各島を凱旋した。この頃、レイはダンシングキャットプロダクションのためにレコーディングを始めた｡「ダンシングキャットの人達と会えて夢がかなった」とレイは言う。「彼らは私や私のオハナ、そして全てのスラックキーミュージシャンを色々な方法で助けているんだ。音楽を本当に愛していて、それを示しているんだね。ダンシングキャットはとても注意深く私たちを録音して、世界中に私たちの音楽を連れて行ってくれた。」
レイのダンシングキャットで最初のアルバム、プナヘレ（PUNAHELE）は、1994年に発表された。おなじみのスタンダード曲のほか、まだそれまでレイがレコーディングしていなかった収録曲はすぐにロコの人気を獲得した。彼がダンシングキャットで次にリリースしたのがヴァアヒラ（WA'AHILA）だ。これにはレイのファンにはおなじみの曲のほか、新しくレパートリーに加えられた刺激的な曲が含まれている。オリジナルとスタンダードの十四曲には例えば、 ワイオケアニアニ、ヒイラヴェ、イカポ メ ケアオのような古典とならんでケイキ スラックキー、キラキラ オ ハレアカラといった珍しい曲があり、そしてまたダンシングキャットを記念して作曲されたポーポキ スラックキーが含まれている。ポーポキとはハワイ語で猫のことだとレイは解説する。有名なタロパッチとワヒネチューニングに加えて、レイは非常に珍しいAマウナロア チューニングも演奏している。
スペシャル ボーナスとして、ヴァアヒラはレイの美しく才能あふれる妻、イローディア・カーネのヴォーカルをフィーチャーしている。コンサートでイローディアと出会った人なら皆、イローディアが気取らない声で魅了する強力なシンガーだということを知っている。
彼女とレイが歌う心をこめたデュエット、ケカリ ネイ アウ（ハワイアン ウェディングソング）は、彼らにとって特別の意味がある。アルバムのノートで解説したように、実は、この歌を歌って彼らは出会ったのだ。「歌はそれ以来私達を結び付けているんだ。」とレイは言う。「ついにレコーディングすることができてうれしいよ。これは子供達と孫に、それから私達のように愛し合っている全てのひとに捧げるのさ。」
レイの全ての音楽のように、ヴァアヒラは彼のユニークなナヘナヘ（ハワイ語で、柔らかな、甘美な、メロディをもった）スタイルに満ちている。
それは伝統への深い敬意と人生に対する伝染性の愛情を放射している。健康問題が再びレイの移動能力を制限したため、アルバムが世界中のスラックキーファンの心に触れる彼の大使として仕えている。「世界中の人が電話してくるんだ。」レイは言う。「ヨーロッパ、日本、カナダ、オーストラリア、聞いたことのなかった場所からも。もしもし、ギター演奏者のレイ・カーネさんでしょうか。そうです､私です｡すると彼らはショック状態になるんだ。彼らは興奮して木の葉のように揺れ始めるんだ。しかし、真剣に、音楽を愛しているから電話をかけてくるんだね。私は才能を与えてくれた善良な神に感謝して、音楽をシェアできたこの長い年月に感謝するだけだよ。」
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